上島国利「やさしくわかる精神医学」
一般の身体医学では、医師が目でみて診察したり、さまざまな検査をしたりします。そうして得た客観的なデータから、どのような異変が体に起こっているかを診断します。しかし、こころの病気は、目にみえる現象だけでは診断がつきません。また、脳の検査をしても、原因がはっきりしないケースもあります。
そこで医師は、本人の訴えや心理状態、生育歴、環境などから、「こころの状態」を探っていきます。
※診断が主観的になりがち
こころの病気では、具体的な原因や身体的な変化がみられないことがほとんど。診断は医師が、本人の訴える主観的な症状や心理状態を観察して行う
■(抑うつ障害)うつ病
うつ病の基本症状は、「気分が落ち込む、気がめいる、物悲しい」といった「抑うつ気分」です。また、あらゆることへの関心や興味がなくなり、なにをするのも億劫になります。知的活動能力が減退し、家事や仕事も進まなくなります。
うつ病の原因ははっきりわかっていませんが、遺伝的要因や脳の機能的要因などが、複雑にからみ合って発症すると考えられています。発症のきっかけとしてもっとも多いのは、ストレスです。転勤や退職、結婚、離婚などのライフイベントや、家族との離別(喪失体験)などがストレスとなります。
病前の性格との関連も指摘されており、発症しやすい性格として「メランコリー親和型(秩序を重視し、他者につくす傾向が強い)」がよく知られています。
※ただの「落ち込み」とはまったく違う
嫌なことがあると、だれでも気分が落ち込むものです。しかし、好きなことをしたり、人と話をしたりして、気を紛らわすことはできます。多くの場合は数日くらいで、徐々に立ち直ってくるものです。しかし、抑うつ障害による抑うつ感は長時間続き、好きなことさえする気になりません。気分転換もできず、生活にも支障を来します。通常の「落ち込み」とは、質的にも量的にもまったく違うものなのです。
■適応障害
適応障害は、「心的外傷およびストレス因関連障害群」のひとつで、人生でだれにでも起こりうるできごとがストレスの原因となります。そのほか、離婚や失業、重い病気、親しい人との死別など、不幸なできごとも原因となります。
一方、大災害や犯罪、戦争など、非日常的なできごとのあとに、不安感やフラッシュバック、不眠などが現れることがあります。これらは急性ストレス反応といい、症状が1ヵ月以上続くと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)になります。
日常的なストレス
→・表面上はかわらないことも
・内心は苦しんでいる
→・ひきこもる
・攻撃的な態度
・抑うつ症状
■パーソナリティ障害
考え方や行動が通常とは著しく逸脱したパーソナリティ障害。病気なのか、性格のかたよりなのか、その線引きは難しいところです。
世の中には、平均的な人々とは違う認知や行動のパターンをもっているため、「変わった人」「個性的」と評される人々がいます。しかし、こうした人々がすべて障害というわけではなく、明確に線引きすることは非常に難しいといえます。
…人格のかたよりが大きく、つねに同じパターンでトラブルをくり返していて、本人が苦痛を感じているか、周囲が苦痛を感じている場合に、パーソナリティ障害と診断され、治療が必要となります。パーソナリティ障害の原因については、さまざまな研究がなされています。遺伝子がかかわっているという説や、幼児期の養育者(主に母親)との関係が深く関与しているという説もあります。
パーソナリティ障害は、人格のかたより方からA群、B群、C群の3つに分けられます。ただし、いくつかのタイプを合わせもっていることがほとんどです。
・疑い深く風変わりなA群
A群の特徴としては、他人と親しくなることに恐怖を感じるため、対人関係をつくれない傾向や、自分の不快な感情を認めず他人のせいにする傾向があります。
・気まぐれで衝動的なB群
B群では、反社会性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害が含まれます。これらの障害では、攻撃的な態度や、気まぐれで激情的な態度、感情的な態度が共通してみられます。
・不安が強く臆病なC群
C群には、回避性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害、強迫性パーソナリティ障害が含まれています。
C群の特徴は、なんでも他人にしてもらいたいという強い受け身の姿勢です。人に嫌われたくない、傷つきたくないという不安感が強いために、自分から行動することに対して非常に臆病になります。そして、他人になにもかも頼りきったり、遠慮しすぎたりして、他人との距離がうまくとれません。
■地域精神保健福祉機構
通称コンボ。精神障害者を抱える家族のための全国組織です。患者会、家族会と連携しながら、精神障害者が地域で暮らすしくみづくりに取り組んでいます。
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